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税務調査で「指摘ゼロ」でも喜んではいけない理由
「税務調査が入ったけれど、指摘が一切なかった。良かった!」
多くの納税者や税理士がこう考えがちですが、本当にそれで安心して良いのでしょうか。
実は、税務調査で「是認(指摘ゼロ)」となるケースの中には、本来であればもっと節税できたのに、必要以上に税金を払い過ぎているという、見えない損失が潜んでいることがあります。
本記事では、税務署側の本音や、現場で実際に見られる「過度に安全運転な経理・税務」の問題点を整理しながら、税務調査と節税のバランスの取り方について解説します。
税務調査の対象になりやすい会社とは
まず前提として、税務調査はあらゆる会社・個人事業主に入るわけではありません。
全体から見ると、実際に調査が行われるのはごく一部です。
税務署は、次のような観点から調査対象を選定します。
● 売上や利益の変動が大きい事業者
売上や利益が大きく増えた年は、どうしても税金を減らしたい誘惑にかられてしまうため、「節税目的で本来認められない経費を計上しているのではないか」 と疑われやすくなります。
● 同業他社と比較して利益率が不自然に低い会社
同じ業種・同規模の他社と比べて利益率が低い場合、 「過大な経費計上が行われているのではないか」 という観点から、ターゲットにされることがあります。
● 長期間税務調査が入っていない事業者
たとえば10年以上税務調査が入っていないような事業者は、 「そろそろ一度チェックしておこう」という対象になりやすくなります。 長期間調査がないと、気が緩んで脱税に走る事業者も一定数いるためです。
● 海外取引・暗号資産・新しいビジネスモデル
近年は、
- 海外との取引が多い事業者
- 暗号資産(仮想通貨)関連
- シェアリングエコノミーなど新しいビジネス形態
といった分野も、意識的に調査対象として注目されています。
「見込み違い」の税務調査と、税務署の本音
上記のような観点から「怪しい」と見込んで税務調査に入ったとしても、実際に調査してみると、脱税も誤りも全く見つからないというケースもあります。
このような場合、税務署はどう動くのでしょうか。
● それでも何か指摘できないか、まずは探しにいく
調査官としても、せっかく税務調査に入ったからには「何かしら指摘事項を見つけたい」という心理が働き、 細かなミスや形式的な誤りを探そうとすることがあります。
● それでも「真っ白」と判断したら、早めに是認へ
一方で、明らかに真っ当に処理されている会社に対して、 無理に粗探しをするとクレームにもつながります。
税務署には「金額のノルマ」はありませんが、「件数」という意味でのノルマ・目標はあります。時間をかけても何も出てこない会社に、いつまでも張り付いている余裕はありません。
そのため、優秀な調査官ほど、「この会社は真っ白だ」と判断したら、早々に是認(指摘ゼロ)で調査を切り上げます。
指摘ゼロ=「節税の余地もゼロ」とは限らない
税務調査で是認となった会社について、税務署側が心の中でこう思っているケースもあります。
- 「真っ白な経費しか入れていないな」
- 「全然節税していないな」
- 「税金をたくさん納めていてえらいな」
つまり、「指摘ゼロ=満点」ではなく、「攻めていない=税負担が重すぎる」という状態である可能性も十分にあるということです。
● 実際にあった「経費ほぼゼロ」の顧問先事例
以前、他の税理士事務所から当社に切り替わった顧問先の中に、
- 交際費がほとんど計上されていない
- 旅費交通費もほぼなし
- 福利厚生費もゼロに近い
- 仕入と人件費以外の経費がほとんどない
という事業者がいました。
ヒアリングをすると、実際にはビジネス上必要な会食や出張などが多数あったにもかかわらず、「税務署がうるさそうだから」と言われ、前の税理士からほとんど経費計上を認められていなかったのです。
その結果、利益だけが膨らみ、税金を大きく払い過ぎている状態になっていました。翌期以降は、税法上認められる範囲で適切に経費計上を行うよう見直しを行いました。
「過度に保守的な税理士」が招く見えない損失
税理士にも様々なタイプがおり、中には「税務調査で指摘を受けたくない」あまりに、グレーなものをすべて排除するスタンスの人もいます。
● 税理士側の事情
税務署から経費を否認された場合、
- 納税者から責任を問われるリスク
- 不正と判断された場合の税理士会による処分(最悪の場合、資格剥奪)
などを恐れるあまり、極端に安全な判断しかしない税理士も存在します。
その結果、
- 「それは経費にしないでおきましょう」
- 「税務署がうるさいから全部ダメです」
と、本来は事業に関係し、説明もつく費用までカットされてしまうことがあります。
税務調査では指摘されにくくなりますが、その裏側で、納税者は本来より多くの税金を払い続けていることになります。
理想は「説明できるグレー」を含めたバランスの良い節税
もちろん、脱税や明らかな不正は論外ですが、税務上許容される範囲のグレーゾーンをどの程度まで認めるかは、税理士のスタンスによって大きく異なります。
● 説明がつく経費は、堂々と計上する
たとえば、
- 事業に関連する交際費・会議費
- 業務に密接に関係する出張・研修・勉強会費用
- 従業員のモチベーション・定着に資する福利厚生費
などは、きちんと説明がつくのであれば、経費として計上するのが自然です。
仮に税務調査で一部否認され、
「10入れたうち1だけ修正になった」としても、残りの9は節税として機能しています。
そもそも最初から10すべてを計上していなければ、
その分だけずっと高い税金を払い続けていることになります。
● 税務調査は「完全勝利」よりも「トータルで節税ができているか」が重要
「絶対に修正申告になりたくない」と考えすぎると、結果的に税負担が過大になることも少なくありません。
重要なのは、
- 事業に関連する支出かどうか
- 説明がつくかどうか
- 費用対効果(節税メリットとリスク・手間のバランス)
を踏まえたうえで、合理的なラインを見極めることです。
「提案してくれる税理士」と付き合うことの重要性
本当に頼れる税理士は、単に「ダメな経費を弾く人」ではなく、次のような視点で提案をしてくれます。
- 「同業他社と比べて、◯◯費が少ないですね」
- 「本来経費にできる支出が、計上漏れしていませんか?」
- 「このような形で経費計上に関するルールを設定すれば、税務上も経費にできます」
つまり、「節税の余地」を一緒に探してくれるパートナーであることが重要です。
税務調査で指摘がなかったからといって安心するのではなく、「本当に適切なバランスで節税できているか?」を、改めて見直してみることをおすすめします。
まとめ:指摘ゼロ=ゴールではない
税務調査で「指摘ゼロ」となること自体は、もちろん悪いことではありません。
しかし、
- 本来認められる経費まで削っていないか
- 過度に保守的な判断で税負担が重くなっていないか
- 事業の実態に合った合理的な節税ができているか
という観点で見直してみると、改善の余地が見つかるケースは少なくありません。
当社では、税務調査の対応だけでなく、「適切なリスクコントロール」と「無理のない節税」の両立を重視したサポートを行っています。
- 過去に税務調査で指摘ゼロだったが、逆に不安になった
- 税理士があまり節税の提案をしてくれない
- どこまで経費にしてよいのか、判断基準が分からない
といったお悩みがあれば、お問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。
YouTubeでも詳しく解説しているので、是非ご覧ください。


