役員や従業員の住居を「社宅」として会社名義で借りることで、給与(住宅手当)として受け取るよりもトータルの税負担を抑えられる――
いわゆる「社宅による節税」は、中小企業オーナーの間でも非常にポピュラーな節税策です。
一方で、前提や計算を間違えると「現物給与」として課税されてしまうケースも少なくありません。
本記事では、借り上げ社宅(法人契約)のケースを中心に、社宅節税の基本ルールと間違えやすいポイントを整理します。
目次
自宅の家賃:個人事業主と法人でルールが違う
まず大前提として個人事業主と法人では、自宅家賃の取り扱いが大きく異なります。
- 個人事業主:自宅兼事務所であれば、家賃のうち、仕事スペースとして使っている部分のみ按分して経費計上が可能。
一方、法人の場合は、
- 会社名義で住居を借りる(法人契約)
- 役員・従業員から一定額の家賃を徴収する
という条件を満たせば、会社が支払う家賃の大部分を経費計上しつつ、役員・従業員側の所得税・住民税の課税も抑えることが可能になります。
この「一定額をきちんと徴収する」という点を外すと、現物給与として課税されてしまうので注意が必要です。
社宅で「現物給与」が問題になる場合
役員や従業員に無料または「賃貸料相当額」より低い金額で貸した場合、税務上は次のように扱われます。
無料で賃貸した場合:賃貸料相当額について、給与として課税されます。
賃貸料相当額より低い金額で貸した場合:賃貸料相当額と受け取った家賃の差額について、給与として課税されます。
これにより、次のような問題が生じます。
- 役員・従業員の所得税・住民税が増える
- 会社もその分の源泉所得税を納める必要がある
つまり、「節税のつもりで社宅を借りたのに、結果として税金が増えてしまった」ということになりかねません。
これを避けるために、税務上認められる基準に沿って、役員・従業員から一定額の家賃を徴収する必要があります。
従業員社宅の基本ルール:「賃貸料相当額」の半分以上を徴収
まずは従業員へ貸与する社宅から見ていきます。
法人名義で借り上げた社宅を従業員に貸す場合、「賃貸料相当額」の2分の1以上を従業員から徴収していれば、現物給与として課税されません。
ここで、「賃貸料相当額」は、”家賃相当額”であると誤った理解をしている人は非常に多いので要注意です。
■ 賃貸料相当額とは
賃貸料相当額は、次の3つの合計で計算します(国税庁タックスアンサーの計算式に基づく)。
- 建物の固定資産税の課税標準額 × 0.2%
- 12円 ×(建物の総床面積(㎡) ÷ 3.3)
- 敷地の固定資産税の課税標準額 × 0.22%
通常の高層マンションの場合、この賃貸料相当額が実際の家賃相当額のおおむね20%前後になることが多く、従業員から徴収すべき額はその半分、つまり実際の家賃の10%前後となるケースがよくあります。
イメージとしては、
- 会社が家賃20万円を支払う
- 賃貸料相当額:4万円(20%)
- 従業員から徴収すべき最低額:2万円(その半分)
→ 従業員は2万円の負担で済み、残り18万円前後は会社の経費になる
という形です(あくまでイメージであり、実際は個別計算が必要です)。
■ 固定資産税の課税標準額情報の入手
賃貸料相当額の計算でネックになるのが、「固定資産税の課税標準額」をどうやって把握するかという点です。
- 不動産管理会社・オーナーから教えてもらう
- 教えてもらえない場合は、市区町村役場・都道府県税事務所で固定資産税評価証明書を取得する
簡便的な近似値として、路線価や建築価額表を用いて概算する方法もありますが、その場合は税務リスクを見込んで、賃貸料相当額をやや高めに設定しておく方が安全です。
役員社宅のルール ― 小規模かどうかで大きく変わる
次に、役員社宅の場合の取り扱いです。
従業員よりもルールが厳しく、「小規模住宅」かどうかで計算方法が変わります。
■ ① 小規模住宅の場合
小規模住宅とは、概ね次のような条件を満たす住宅です。
- 法定耐用年数が30年以下の建物:床面積132㎡以下
- 法定耐用年数が30年超の建物:床面積99㎡以下
この小規模住宅に該当する場合、従業員社宅の計算で用いた「賃貸料相当額」を役員から徴収していれば、現物給与とされません。従業員とは異なり、役員の場合は賃貸料相当額の2分の1以上ではなく、賃貸料相当額以上を徴収する必要があります。
賃貸料相当額は、前述の通り、通常の高層マンションであれば実際の家賃のおおむね20%前後となることが多く、役員から家賃の約2割を徴収すれば、残りの8割は会社の経費にできるイメージです。
■ ② 小規模住宅に該当しない場合(広い社宅)
小規模住宅の要件を超える広さの社宅の場合、賃貸料相当額の計算が厳しくなります。
おおむね、
- 会社が不動産オーナーに支払う家賃の50%
- 上記の計算式で求めた賃貸料相当額
のいずれか多い方が賃貸料相当額となります。
実務上は、家賃の50%の方が大きくなることが多いため、
- 家賃が20万円であれば、役員から10万円徴収
- 残り10万円が会社の経費
というイメージになります。
小規模社宅に比べ、会社側の節税メリットは小さくなる点に注意が必要です。
■ ③ 床面積240㎡超の「豪華社宅」の場合
床面積240㎡を超えるような社宅や、プール・過度な設備などを備えた豪華社宅は、原則として通常の家賃相当額を役員から徴収しなければならないとされます。
その場合、
- 会社が支払う家賃80万円 → 役員からも80万円徴収
となり、節税メリットはほぼない状態になります。
「豪華社宅」に該当する場合や、「役員の嗜好を強く反映した設備」がある場合は、特に慎重な検討が必要です。
床面積・共用部分に関する注意点
小規模社宅かどうか、賃貸料相当額の計算などで用いる床面積は、共用部分も含んだ面積で考える必要があります。
- マンションの場合、共用部分の総面積を各戸の専有面積割合で按分
- その按分後の面積を用いて、99㎡・132㎡・240㎡といった基準に当てはめる
共用部分を含め忘れると、「小規模住宅のつもりが実は対象外だった」ということにもなりかねません。
法人所有の社宅の場合
ここまでは法人が賃貸で借りる社宅(借り上げ社宅)を前提にしてきましたが、法人が自社所有の建物を社宅として貸す場合もあります。
- 従業員社宅:基本的に借り上げ社宅と同様の考え方
- 役員社宅(小規模住宅):こちらも基本は借り上げ社宅と同様
- 小規模社宅に該当しない場合:(建物の固定資産税の課税標準額 × 12%(※)+敷地の固定資産税の課税標準額 × 6%)×1/12となり、役員の自己負担額が高額となることが多い
※法定耐用年数が30年を超える建物の場合には10%
社宅節税でよくある「失敗パターン」
実務でよく見かける間違いには、次のようなものがあります。
- 法人名義ではなく、個人名義で借りている
- 役員・従業員からの徴収額が少なすぎて、現物給与として指摘される
- 小規模住宅の床面積判定で、共用部分を含めていない
- 路線価等を用いた概算をしているのに、賃貸料相当額をギリギリ低めに設定している
- 豪華社宅に該当するレベルの設備を導入しているのに、通常の社宅と同じ感覚で処理している
これらはいずれも、税務調査で指摘されやすいポイントです。
まとめ:社宅による節税は効果大、ただし詳細な設計が必須
社宅は、
- うまく設計すれば、会社の経費を増やしつつ、役員・従業員の手取りも確保できる
- 一方で、設定や計算を誤ると現物給与として課税され、かえって税負担が増える
当社では、
- 社宅制度の設計・シミュレーション
- 役員・従業員からの徴収額の具体的な試算
- 就業規則・社内規程との整合性チェック
などを含め、「税務リスクを抑えつつ、実効性のある社宅節税」をトータルでサポートしています。
自社に社宅制度を導入・見直ししたいとお考えの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。


