自宅兼事務所・自宅兼店舗として「持ち家」を使っている個人事業主の方は少なくありません。
その一方で、
- どの費用をどこまで経費にしてよいのか分からない
- 家事按分の割合をどう決めればいいのか曖昧なまま
といった不安や疑問を抱えたまま申告しているケースも多いです。
本記事では、持ち家を事務所・店舗として利用している個人事業主の方に向けて、経費にできるもの・家事按分の考え方・住宅ローン控除との関係で気をつけるポイントを整理して解説します。
目次
自宅兼事務所で必ず出てくる「家事按分」とは
個人事業主の場合、仕事用とプライベート用が混在している支出がたくさんあります。例えば、
- 自宅兼事務所・自宅兼店舗の減価償却費(持ち家)・家賃(賃貸の場合)
- 電気代・水道代・ガス代
- インターネット代・固定電話代・携帯電話代
- 自家用車を仕事でも使っている場合の減価償却費・ガソリン代・駐車場代
こうした支出は、仕事で使っている部分のみ経費にすることができます。
このように、1つの支出を「事業部分」と「プライベート部分」に合理的な基準で分けることを、税務上は「家事按分」と呼びます。
ポイントは、あくまで税務署に説明して納得してもらえる客観的な基準で按分割合を決めることです。細かいパーセンテージまで法律で決められているわけではなく、ケースごとに合理的な基準を考えていくことになります。
家事按分の割合はどう決める?
自宅兼事務所・自宅兼店舗でよく使われる客観的な指標は次のとおりです。
● 面積を基準にする方法
もっとも一般的なのが床面積を使う方法です。
- 自宅全体の床面積:例えば 70㎡
- そのうち、仕事専用部屋の床面積:例えば 14㎡
この場合、事業使用割合は 14㎡ ÷ 70㎡ = 20%というイメージになります。
固定資産税・減価償却費・水道光熱費などは、この20%を掛けた金額を経費とするのが典型的な家事按分の方法です。
● 共用部分(廊下・トイレ・玄関など)の扱い
「廊下やトイレなど、仕事でもプライベートでも使う場所はどうするのか?」という質問もよくあります。
この場合は、例えば、
- 専用の仕事部屋の面積割合に応じて共用部分を按分する
- 全体の使い方に応じて、少し保守的に事業割合を決める
など、合理的な方法で按分していれば問題ありません。
大切なのは、「なぜこの割合にしたのか」を説明できるよう、間取り図やメモを残しておくことです。
● 時間を基準にする方法
電話代・インターネット代・携帯代などは、仕事で使う時間の割合を基準に考えることもあります。
- 1日のうち、仕事でインターネットを使っている時間の目安
- 電話の履歴・取引先との通話頻度など
を参考にしながら、おおよその仕事利用割合を決めていきます。
持ち家で経費計上できる主な項目
自宅を所有している場合(持ち家)の代表的な経費対象は次のとおりです。
いずれも「事業使用割合」を掛けた部分だけが経費になります。
- 固定資産税
家屋・土地にかかる固定資産税は、事業割合を掛けて経費計上します。 - 水道光熱費
電気・ガス・水道なども、事業割合で按分して経費にできます。 - 火災保険料
年間または数年分まとめて支払う火災保険料も、事業割合相当は経費にできます。 - 地震保険料
・居住用(プライベート)部分:所得控除(地震保険料控除)の対象
・事業用部分:経費として計上
というように、用途ごとに「経費」と「所得控除」に分ける形になります。 - 住宅ローンの利息部分
住宅ローン返済のうち「元金部分」は経費になりませんが、利息部分については事業割合相当を経費にできます。 - インターネット・通信関連費
自宅のインターネット料金・固定電話・携帯電話なども、仕事で使っている割合を基準に家事按分します。 - マンションの管理費・修繕積立金等
マンションの場合は、管理費なども事業使用割合を掛けて経費にできます。 - 建物本体の減価償却費
購入した持ち家のうち「建物部分」は減価償却を通じて経費化できます(詳細は後述)。
土地は減価償却をおこなうことはできず、経費にならない点に注意が必要です。
建物の減価償却の基本
持ち家のうち建物部分については、購入した年に一括で経費にするのではなく、「減価償却」という手続きで毎年少しずつ経費にしていきます。
● 減価償却とは
建物・設備・備品・車両などの固定資産は、長期間にわたって使用され、時間の経過とともに価値が減っていきます。
そのため税法上は、
- 購入した年に全額を経費にするのではなく
- 法定耐用年数に応じて、毎年決まった金額(または割合)を経費として計上する
というルールになっています。
この毎年の経費を「減価償却費」と呼びます。
● 主な耐用年数のイメージ
- 鉄筋コンクリート造・住宅用の建物:47年
- 木造・住宅用の建物:22年
- 自家用車:6年 …など
実際には、法令(耐用年数表)で細かく決められています。
● 計算方法(定額法が原則)
個人事業主の場合、原則として定額法を使います。
考え方としては、
- 取得価額 ÷ 耐用年数 = 毎年の減価償却費(イメージ)
となりますが、実務では「償却率」という割合を掛けて計算します。
算出した減価償却費に事業使用割合を掛けた金額だけが、実際に経費となります。
また、年の途中で持ち家を取得した場合は、月割り(○か月/12か月)で按分する点も押さえておきましょう。
● もともと自宅として買っていた場合・中古住宅の場合
よくあるのが、
- もともとは「完全な自宅」として購入
- のちに開業して、自宅兼事務所として使い始めた
というケースです。この場合、購入時からの経過年数などを踏まえて、途中から事業用に使い始めた場合の特別な計算が必要になります。
さらに、中古住宅を購入して自宅兼事務所にしている場合は、中古資産用の耐用年数を用いて、新品より短い年数で減価償却することができます。
こうした点は個別計算が必要になるため、迷った場合は専門家に相談されることをおすすめします。
住宅ローン控除との関係は特に要注意
持ち家を経費にする際に最も注意が必要なのが、住宅ローン控除との関係です。
● ローン利息は「経費」+「住宅ローン控除」で役割が違う
- 事業用部分(事業使用割合相当):ローンの利息部分を経費にできる
- 居住用部分(プライベート部分):住宅ローン控除の対象となる元本部分の計算に使われる
つまり、事業用として使っている割合については住宅ローン控除の対象外となり、その代わりに利息部分を経費にできる、というイメージです。
● 事業使用割合が50%を超えると…
ここが実務上の大きな落とし穴です。
自宅のうち事業に使っている割合が50%超になると、住宅ローン控除自体が受けられなくなるケースがあります。
住宅ローン控除は金額が大きくなることが多いため、安易に「事業割合は50%くらいかな」と設定すると、かえって損をする可能性があります。
● 事業使用割合が10%以下の場合
一方で、事業使用割合が10%以下の場合には、住宅ローン控除の判定上は「100%居住用」として扱われる取り扱いがあります。
つまり、
- 経費にできる金額は少なくなるものの
- 住宅ローン控除はフルに使える
という選択肢もあり得るわけです。
どの程度の割合で事業利用として申告するかによって、トータルの税負担が大きく変わるため、事前のシミュレーションが非常に重要です。
実務で押さえておきたいチェックポイント
最後に、持ち家を事務所・店舗として使っている個人事業主の方向けに、実務上のチェックポイントをまとめます。
- 間取り図を用意し、仕事スペースを明確にして、事業使用割合を計算しておく
- 電気代・通信費などは、時間や利用実態をメモし、合理的な按分割合を決める
- 固定資産税・火災保険料・地震保険料・ローン返済明細など、根拠資料を用意しておく
- 住宅ローン控除の金額と、事業経費にできる金額をざっくりシミュレーションしてみる
- 事業割合をどこまで取るか迷う場合は、税務署に説明できるかどうかを一つの基準にする


