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学生世代の健康保険の被扶養者要件「130万円の壁」が150万円へ
令和7(2025)年度の税制改正により、所得税・住民税における「年収の壁」が引き上げられました。これを受けて、健康保険における被扶養者の年収要件(いわゆる130万円の壁)についても、一部の年代を対象に150万円未満まで引き上げられることになりました。
ただし、対象となる年齢や判定のタイミングを誤解すると、「扶養のつもりが実は外れていた」ということにもなりかねません。
本記事では、今回の見直しのポイントと実務上の注意点を整理します。
今回の見直しの概要
今回の改正で対象となるのは、19歳以上23歳未満の被扶養者(主に学生世代)です。
この年代について、親の健康保険の扶養に入ったままでいられる年間収入の上限が、次のように変わります。
- 従来:年収 130万円未満
- 改正後:年収 150万円未満
適用開始は令和7(2025)年10月1日からとされています。
これにより、アルバイト等で収入がある学生世代でも、年間150万円までであれば健康保険上の「親の扶養」にとどまれるケースが増える見込みです。
税制改正(所得税)の「150万円の壁」との関係
今回の健康保険の見直しは、所得税の扶養控除の見直しに歩調を合わせる形で行われています。
もともと所得税では、19歳以上23歳未満の扶養親族について、親側で特定扶養親族控除63万円が認められてきました。
従来は、子どもの年収が103万円以下であることが、この63万円控除の要件でしたが、税制改正により次のように見直されています。
- 年収150万円以下:63万円の控除
- 150万円を超えると、年収に応じて控除額が徐々に減少(例:150万円超155万円以下なら61万円など)
- 年収188万円超で控除ゼロ
ポイントは、「150万円を1円でも超えたらすぐに控除ゼロ」ではないということです。
無理に年収を150万円以内に抑えようとする必要はなく、「超えたら控除額がどの程度減少するか」を理解した上で働き方を考えることが重要です。
対象となる年齢と判定時期
健康保険上の「150万円未満」が適用されるのは、19歳以上23歳未満の扶養親族です。
ここで重要なのが、年齢の判定時期はその年の12月31日時点で行うという点です(所得税と同じ考え方です)。
イメージとしては次のようになります。
- 年末時点でまだ18歳:その年は130万円未満が基準
- 年末時点で19〜22歳:その年は150万円未満が基準
- 年末時点で23歳:その年から再び130万円未満が基準
年末時点で何歳かで判断される点に注意が必要です。
年収の考え方 ― 「今後1年間の見込み」で判定
では、「150万円未満」という年収は、いつからいつまでの期間で見るのでしょうか。
ここは従来と変わらず、「今後1年間の収入見込み」で判定します。
例えば、次のようなケースでは、トータルで150万円未満に収まるのであれば、扶養内と判断される可能性があります。
- 夏休み期間だけアルバイトを増やして一時的に収入が多い
- 学期中はシフトを減らし、年間のトータルでは150万円に届かない
大切なのは、過去の実績ではなく、今後1年間の働き方と収入見込みをベースに判断することです。
同居・別居で異なる判定基準
● 親と同居している場合
親と子が同居している場合、まずは子どもの年収が150万円未満であることが前提となります。
その上で、原則として次のような考え方がとられます。
- 子どもの年収は、被保険者(親)の年収の2分の1未満であること
子どもの年収が親の年収の2分の1以上になってくると、「誰がその世帯の生活を支えているのか」という観点から、もはや扶養とは言えないのではないかという判断になりやすくなります。
もっとも、親の年収を上回っていない場合で、世帯の状況を総合的に見て、なお親が中心的役割を果たしていると認められるケースでは、扶養として認められる余地もあるとされています。
● 親と別居している場合
遠方の大学に通い、寮や下宿で暮らしているケースのように、親元を離れている場合は、同居の場合と同様、子どもの年収が150万円未満であることが前提となり、さらに親からの仕送り額で判断されます。
- 子どもの収入が、親からの仕送り額より少ない:扶養と認められる
- 逆に、仕送り額を大きく上回る収入がある:扶養とは認められない可能性が高い
具体的なチェック方法や運用の厳しさは、加入している健康保険組合ごとに異なることが想定されますが、少なくとも年1回程度は実態確認が行われるのが一般的です。
実態と異なる申告(本当は多く稼いでいるのに少なく申告する等)は、後のトラブルにつながるため、避けるべきです。
配偶者・学生以外の場合の取り扱い
今回の130万円から150万円への引き上げは、あくまで19歳以上23歳未満の被扶養者が対象であり、主に子ども世代を想定しています。
- 配偶者:従来どおり年収130万円未満が基準のまま(今回の改正の対象外)
- 19〜23歳であれば、学生でなくても(フリーター等でも)150万円未満の基準が適用
「学生であること」は要件とされていないため、年齢要件を満たすフリーター等の子どもも同様の取扱いとなります。
よく混同される「106万円の壁」との違い
今回のテーマとあわせて、よく話題に上がるのが「106万円の壁」です。
これは扶養の話ではなく、「勤務先の社会保険に加入しなければならないかどうか」の基準であり、今回の150万円の壁とは別物です。
概ね次のような要件を満たすと、アルバイトであっても勤務先の健康保険・厚生年金に加入することになります(従業員数51人以上の企業等が前提)。
- 所定内賃金が月額8.8万円以上
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 2か月超働く見込みがある
- 学生ではない
一方、従業員50人以下の企業では、従来どおり正社員の4分の3以上働いているかどうかで社会保険加入の判断がされるのが一般的です。
勤務先の規模によって「どの壁を気にすべきか」が変わるため、扶養の基準(130万/150万)と、勤務先での社会保険加入基準(106万など)を分けて考えることが大切です。
今後の社会保険制度の方向性と実務上のポイント
今回、19〜23歳の被扶養者については緩和方向の見直しが行われましたが、
少子高齢化が進む中で、国(厚生労働省)は「働く人の多くに社会保険料を負担してもらう」方向性を持っていると考えられます。
中長期的には、より多くの人が何らかの形で社会保険に加入していく流れは変わらないでしょう。
企業の担当者やご家庭で確認しておきたいポイントは、次の通りです。
- 対象の子どもがその年の年末時点で何歳かを確認する
- 今後1年間の収入見込みをシミュレーションする
- 勤務先の従業員規模と社会保険加入基準を確認する
- 加入している健康保険組合の運用(同居・別居の判断基準など)を確認する
YouTubeでも詳しく解説しているので、是非ご覧ください。


