マイカー通勤(車通勤)をしている従業員に対する通勤手当について、非課税限度額が引き上げられる改正が行われました。しかも、令和7年4月1日に遡って適用されるという、給与担当者にとってはなかなかインパクトの大きい内容です。
さらに今回の改正では、退職者についても影響がある場合には、既に発行済みの源泉徴収票を訂正して再発行するよう求められています。給与・年末調整の実務担当者にとっては、年末にかけて負担が増える改正と言えます。
本記事では、今回のマイカー通勤手当の改正のポイントと、年末調整・退職者対応の実務の流れを整理します。
目次
通勤手当改正の概要
今回の改正のポイントは次のとおりです。
- マイカー通勤手当(自動車・自転車等)の非課税限度額が引き上げられる。
- 令和7年4月1日以後に支払われるべき通勤手当に遡って適用される。
- 今年(改正年)の年末調整でまとめて精算することとされている。
- 11月20日以降に支払われる給与については、原則として改正後の非課税枠を用いて給与計算を行う。
公共交通機関(電車・バス等)で通勤している方については、1か月あたり15万円まで全額非課税という従来の取扱いに変更はありません。影響を受けるのはあくまでマイカー通勤(自動車・自転車を含む)の従業員・役員です。
どの通勤手当が「改正対象」になるのか
今回の改正では、「令和7年4月1日以後に支払われるべき通勤手当」が対象とされています。ここで重要なのは、発生月ではなく「支給日ベース」で判断するという点です。
例えば次のように考えます。
- パターン①:3月分の通勤手当を 4/10 に支給している場合
→ 4月1日以後に「支払うべき」通勤手当に該当するため、改正後の非課税限度額を適用。 - パターン②:4月分の通勤手当を 3/10 に前払いしている場合
→ 3月10日に支払うべき通勤手当であり、4月1日以後支払うべき通勤手当には該当しないため、従来の非課税限度額を適用。
したがって、単純に「4月分だから対象」「3月分だから対象外」と判断するのではなく、支給日が4月1日以降かどうかで判断する必要があります。
非課税限度額引き上げで何が変わるのか
マイカー通勤手当については、通勤距離に応じた「非課税限度額」が国税庁により定められています。実際のガソリン代や車両費を細かく計算するのではなく、通勤距離ごとの「目安額」で非課税枠を決める仕組みです。
今回の改正では、この距離区分ごとの非課税限度額が引き上げられました。例えば、
- 10km以上15km未満:7,100円 → 7,300円(+200円/月)
- 55km以上:31,600円 → 38,700円(+7,100円/月)
といった形で、距離が長いほど引き上げ額も大きくなります。
■ 具体例:通勤距離50km・月額3万円支給の場合
- 改正前の非課税限度額:28,000円
- 通勤手当支給額:30,000円
→ 超過分2,000円は「課税」扱い(給与として源泉徴収)
これが改正後は、
- 非課税限度額:32,300円
- 通勤手当支給額:30,000円
→ 全額30,000円が「非課税」となり、課税される部分がなくなる
このように、4月1日以後支払分のうち、本来は非課税にできた金額について、年末調整で精算するのが今回の改正の中心です。
年末調整での実務対応のポイント
今回の改正に伴い、給与担当者は次のような対応が必要になります。
- マイカー通勤者の抽出
在職者・退職者を含め、車通勤・自転車通勤など「距離に応じた非課税枠」を適用している従業員・役員を洗い出します。 - 4月1日以後支払分の通勤手当を再計算
支給日ベースで対象期間の通勤手当を抽出し、改正前・改正後の非課税枠の差額を算出します。 - 年末調整で課税所得を修正
従来、非課税限度額超過分として給与に含めていた部分のうち、改正により非課税となる金額を差し引き、源泉徴収税額を再計算します。 - 給与ソフトの設定・検証
使用中の給与計算ソフトが改正後の距離区分・非課税額に対応しているか、4月以降さかのぼり計算が可能か確認しておきましょう。
なお、建前上は11月20日以降に支給される給与から改正後の非課税枠を適用することとされていますが、実務上は「まず年末調整での精算を確実に行う」ことが重要です。
退職者の源泉徴収票をどう扱うか
今回の改正で、実務的に最も頭を悩ませるのが退職者への対応です。
国税庁のQ&Aでは、改正の影響がある退職者については、勤務先が源泉徴収票を訂正し、再発行することとされています。
■ 具体的な対応の流れ
- 対象となる退職者の特定
令和7年4月1日以後に支払われた給与にマイカー通勤手当が含まれており、従来の非課税限度額を超えていた退職者を洗い出します。 - 通勤手当の課税・非課税額を再計算
改正後の非課税枠を用いて、課税されるべき通勤手当の金額を再計算します。 - 源泉徴収票の「支払金額」を訂正
- 従来:課税されていた通勤手当部分が「支払金額」に含まれている
- 改正後:非課税となる部分を支払金額から控除し、訂正後の源泉徴収票を作成
- 退職者への再交付
郵送等で訂正後の源泉徴収票を交付します。再就職済みの人は、再就職先での年末調整に活用されます。
退職者と連絡が取りづらいケース、すでに絶縁状態に近いケースなど、現場ではさまざまな事情があるかと思いますが、制度上は「再発行が必要」という前提で対応方針を検討する必要があります。
また、年の途中で退職し再就職していない人については、改正とは関係なく従来から「確定申告により税金が戻る」ケースが多い点も変わりません。今回の改正により、戻ってくる税額がさらに増える可能性があるため、対象者には確定申告の案内も合わせて検討するとよいでしょう。
今、給与・人事担当者がやっておきたいチェックリスト
今回のマイカー通勤手当の改正に対応するため、最低限、次の点は確認しておくことをおすすめします。
- 社内にマイカー通勤者・自転車通勤者がどれだけいるか把握しているか
- 4月1日以降支払分の通勤手当について、距離区分と支給額が一覧で出せる状態か
- 給与ソフトが改正後の非課税限度額に対応しているか、さかのぼり計算に対応しているか
- 今年退職した車通勤者のうち、非課税枠超過の可能性がある人を特定できているか
- 源泉徴収票の訂正・再発行の社内フロー(誰が、いつまでに、どのように対応するか)が決まっているか
まとめ ― 早めの洗い出しが肝心
今回の車通勤手当の非課税限度額引き上げは、納税者にとって有利な改正である一方、企業の給与・年末調整実務には少なからず負担を強いる内容となっています。
- 4月1日以後支払分に遡って非課税枠を引き上げる
- 今年の年末調整でまとめて精算する
- 退職者についても、影響があれば源泉徴収票を訂正・再発行する
特に、車通勤者の多い企業・退職者が多い企業ほど、早めの情報整理と対応方針の確立が重要です。
YouTubeでも詳しく解説しているので、是非ご覧ください。


